私は今、真面目に死にそうです。
確かにさっきまでホテルにいたはずなのに、現在は何故だか
空にいます。
落下中です。
そりゃぁもう、すさまじい速さで落下しております。
美形でもちょっと許せないってくらいに顔が歪むほど、風圧がすっごいです。
んでもうあと数秒で到着しそうな落下地点は、なんちゅーかぼっろぼろで崩れかけているコンクリ。
(完全に死ぬな、これ)
ほろり、と頬を伝う涙。
だけどそれすらもすぐに乾いてしまうほどの風圧。
こんな訳の分からないことになるなら、ほぼ間違いなく元凶である
(現在私の手のひらに収まった)懐中時計なんて買うんじゃなかったと思い、視線を遠くにやり・・・・・・・・・・・・
目に映った大きな人の形をした影に、心臓が一つ大きく脈を打った。
次いで湧きあがる歓喜。
そして思うことは一つ。
「こん、なとこ、ろで、死んで、たまるかぁあああああ!!」
空中で体をひねり、落下方向へと向けるのは両足。
そして体中のオーラを両足へ9割、残りを足を除く全身へと纏い、
ドガァアッ!!!
なんとなく懐かしいような
(多分前世の最後のアレ)、激しい衝撃が全身に走った。
(たっ、助かった・・・・・なんとか、生きてるよ私・・・・・)
濛々と立ち込める粉塵に小さくむせながら、一先ず体のどこも怪我してないか、骨が折れてないかのチェック。
バクバクとうるさい心臓も、数秒も経てば通常のリズムに。
(・・・・・・・・・にしても、さっき見た
アレは・・・)
ある程度落ち着いてくれば、思い出す先ほどの光景。
(さっき見た
アレが本物なら私は・・・・・・・・私は・・・・・・・・・やべっ、
鼻血出そっ)
今度は別の意味でドキドキしてきた心臓と、ヤバそうな鼻をそれぞれ手で押さえ、心を落ち着かせる。
(落ち着けー、落ち着くんだ私ー、もしかしたらまたトリップしたのかもー、とか、しかもその先は私が愛してやまない世界かもー、だなんて、そうそう美味しい状況ないってー、あははははは)
そう、まさかさっきちらりと見えたのがロボット・・・・ナイトメアフレームだなんて・・・・・・
(巨大な人の形した珍獣かなんかだよ、んで廃墟になったところに住んでたりするんだよ。で、私はそこに瞬間移動したーとか。そんな簡単に世界越えたりできるわけないんだから、こっちの方がまだ現実的ー、って私、ハンター世界に随分馴染んできちゃった考え方するなー・・・・・・・)
深呼吸を一度、二度。
粉塵もだいぶ収まってきていたから、よしさっさとさっきいたホテルに戻ろうと私は立ち上がったのだけど・・・・
「な、ななななんだ貴様!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ひくり、と頬が引きつった。
「さては貴様テロリストか!?なんと卑劣な真似を・・・・!!」
ナンノハナシデスカ?
思わずそう聞きそうになったけど、周りをよくよく見渡してみれば何となく理解した。
私の周囲には崩れ落ちた瓦礫の山。
そしてその下敷きとなった数人の、今私に銃を突き付けてる男と同じ服装の人間。
服装と装備している物から軍人と予想。
で、丁度私の背後には戸惑った様子の黒い服を着た、すさまじい美貌の少・・・・・年と、その少し後ろに横たわるライトグリーンの髪の少女。
うん、分かったよ。
理解したよ。
まさかのまさか、私は二度目のトリップをしたわけですね。
しかも、私の大好きだったアニメ、コードギアスの世界に。
さっき見たのも、間違いなくナイトメアフレームなわけですね。
で、この状況から察するに現在はアニメの最初らへん、C.C.からギアスを授かったすぐ後なわけだね。
つまり、ルルーシュが軍人たちにギアスをかけようとしたまさにその瞬間、私はそのど真ん中に落ちてきた、と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
うわぁ
なんか、ごめん。
主人公の見せ場、しかも一番最初の決め台詞
(だったよな、たしか・・・)遮っちゃったのね、私。
ひどく申し訳ない気持ちが湧きあがり、思わずルルーシュ
(だと思う。だって黒髪紫眼のめっちゃ美形って彼しか当てはまらない)に苦笑いを向ける。
そしたらきょとん、と可愛らしい反応されて私・・・・・・・・
マジで鼻血出そうっす。
みっともない姿さらす羽目になりそうだったから慌てて視線をルルーシュから外し、今だ銃を構える男
(ちなみに一人。他は全員不慮の事故でお亡くなりになったみたい)へと戻した・・・・・・んだけど、あれ?
なんか、怯えてない?
銃口は変わらず私の方を向いているけど、かたかたと小刻みに揺れているし、姿勢もなんだかへっぴり腰だ。
「・・・・な、なんなんだ貴様は・・・・!!」
それでも虚勢を張るように
(震えた)声を荒らげ、ぐっと引き金にかかった指が引かれるのが、見えた。
「!?」
だけど銃口の向き、更には発射される弾丸すら私の眼にははっきり見えるのだから、その軌道上から身を僅かにずらすだけで弾は彼方へと飛んで行く。
続いて何度か発砲されるも、やはり私はあっさりと避け・・・・て、あ、やばい。
「・・・っと」
避けた弾の一つが私の背後にいたルルーシュに当たりそうになったので、瞬時に身をひるがえし腰にさしたままの刀にオーラを込め、居合いで弾く。
「「!?」」
流石に自分でも人間離れした動きだよなって思うけど、ヒソカに比べたらまだまだ一般人だよ、うん。
「・・・・怪我は、ない?」
もしかしたら他にも避けた弾が掠ってたらやばい、と思いざっと確認。
見える範囲にはとりあえずなにもなく、ルルーシュ本人も驚愕の表情のまま首肯を一つ。
「・・・・・・・・・・・よかった」
「・・・・・!!」
ほっと一安心。
思わず頬が緩んだけど、すぐに引き締め振り返る。
「ひっ・・・!」
思いっきりビビって後退りする軍人を睨みつけ、一足飛びで距離を詰め刀を一閃。
(あ、やべ)
刃ではなく峰で打つまでは良かった。
だけどつい全力でやってしまい、しかもオーラを纏ったままだったから・・・・・・・・・切っちゃった。
刃の方じゃないのに、さくっと真っ二つに。
返り血はどうにか避けたからかからなかったけど、真っ二つになり血を噴き出す人間って・・・・エグい。
や、自分がやったんだけどさ。
刃に滴る血を振り払い鞘に納め、私もまだまだだなと自己評価。
はい、目を閉じて反省ー。
「・・・・・・・・お前は・・・・」
とか何とかしてたら、ようやく気を取り戻したらしいルルーシュに声をかけられた。
閉じていた目を開けそちらに振り返れば、やっぱりというかなんというか、警戒心たっぷりのお姿が。
(そりゃあいきなり現れて、敵とはいえ軍人をさっくり切り殺すような奴、危険人物以外の何物でもないよな)
苦笑して、さてこれからどうしようと頭を回転し始める。
(状況を整理するなら、あの懐中時計にかかっていた念で異世界トリップすることになったのは明白。いつまでここにいれるのか、もしくはもう帰れないのかはわからないけど、それは後々調べるとしよう。で、せっかくこの世界に来たからにはやっぱり原作のような未来は変えたい。幸いにもこの世界に非常識な存在なんてウザクしかいないし、NMFには乗れるか分からないけど、私がルルーシュ自身を守ればどうにかなるっしょ、多分。んで、そのルルーシュにはどうやって私が味方だと認識させるかが問題・・・・・・・・・・・・とにかく異世界云々は抜きに、謎の日本人を演じよう。よし、頑張れ私。そしてゲットだ幸せな未来!)
ハンターの世界はすでに私にとって現実だ。
だけどこの世界はまだ私にとって非現実。
私が私の命を一番に考える現実ではなく、私の希望を第一に動ける非現実の世界。
だから私は、私の思うがままに動ける。
(ていうか命の危険はハンター世界より格段に少ないし)
ルルーシュになるべく不安感を抱かせないよう自然な笑みを浮かべ、静かに彼の前へと歩み寄る。
「・・・・!」
得体のしれない私におそらく本能的に恐れ、思わず一歩後ずさるルルーシュ。
だけど矜持の高い彼はすぐにそれを治め、凛と表情を改め私を睨みつけるように構えた。
その姿はまさに上に立つ者の風格。
真正面から見ることになった姿は、テレビ画面越しに憧れていたもの以上の喜びを私に
(主に腐の面で)与えた。
だけどそれをがっつり表に出すつもりはまったくない。
表面上は変わらず微笑みを乗せ、ルルーシュの目前まで来たら身をかがめ、片膝を立てる形で跪く。
そうしたら頭上からひどく狼狽した気配が。
(さて、ここから先は私の演技力しだい、だな)
下を向いたまま緊張から乾く唇をぺろり、と舐め潤し、静かに見上げ視線を彼の瞳に固定。
「・・・お初お目にかかる、ルルーシュ・ヴィ・ヴリタニア殿」
「!?お前はっ、・・・・・・っ・・・・・答えろ、何者だ」
お、なんか今左目が赤く光ったな。
もしかしてギアス?
でも特に何もかかった気配はないなぁ。
・・・・・・・・・・・・不発?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしかして異世界人だから私には効かない、とか?
「・・・・・今使われた力、残念ながら私には効かない
(っぽいっす)」
「っ!」
「だが信じてもらいたい。私が、貴殿の進む道の障害となる存在ではない、と」
「・・・・・・・っならば答えろ。お前が何者なのか・・・」
「・・・名は遊仁。貴殿が、貴殿の愛する者と笑い合える未来を望む者」
「・・・・・・・皇室へ連れ戻しにきた者か?」
「あのような皇帝に捧げる剣など、生憎持ち合わせていない」
きっぱりとした皇帝批判にぽかん、とした反応を返して呉れたルルーシュ、ぷりてぃっす。
唐突な精神攻撃に頬が緩んでしまったけど、どうにか気力を振り絞り表情を整える。
「だが、貴殿へは剣を捧げたいと思った。そして、盾にになりたいとも思えた。微力な力だが、自分以外のためにこの力を使いたいと思ったのは、貴殿に対してが初めてだ。・・・・どうかこの願い、受け入れてはもらえないだろうか・・・・?」
「・・・・・何故、俺なんだ・・・」
「・・・?」
「俺はすでに鬼籍に入った存在だ・・・、それに、この国を占領した男の息子だ。お前のようなやつが剣を捧げる存在では・・・・」
(お、この様子ならもうひと押しか?)
「・・・・言い方が悪かった。私は、ルルーシュ・ヴィ・ヴリタニアというブリタニアの皇子ではなく、ルルーシュ、という個人に剣を捧げたい、そう言ったのだ。地位や家柄なぞただの付属品にすぎない。血の繋がった親がどんな者であろうと、まったく関係ない。大事なのは貴殿の心や信念。」
「心や、信念・・・・・・」
「確かに私と貴殿は全くの初対面。しかも貴殿にとったら私は得体のしれない存在だ。それで私の事を信じろだなどと、図々しいにも程があると分かっている。だが、今すべてをここで話すことは出来ないのもまた、事実・・・・」
「・・・・・・・・・一つだけ、確認したい」
「私が答えられることならば」
「お前の後ろには・・・・・・誰が居る」
「誰も」
「なに?」
「私はどこにも所属していない。私の上に立つ存在は
(元の世界を除けば)ただ一人。ルルーシュ殿、あなた以外に存在しない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
まぁ元の世界にいる私より上に立つ存在って、実力的に勝てないヤバい連中のみなんだけどね。
実家とは縁切ったし。
「・・・・・・・・何者なんだ、お前は・・・・・」
「・・・・・私は・・・・・」
えーっと、どうしよう・・・・。
おそらくこの質問の答え如何で、ルルーシュの中の私の位置が決まる。
だから、下手なことは言えない。
なにが、この場合一番ふさわしい?
素直に言った方がいい?
・・・・無駄にかっこつけてもどうせ後でバレるし、よし、素直に行こう!
「私は・・・・・傍観をやめた愚者
(別名チキン)。貴殿の幸せな未来がみたいと、お節介な思いを抱いた、ただの愚者」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・確かに、お前の思いはお節介だ・・・・・」
時間を僅かにおいて返って来た声は呆れと、微量な歓喜がこもっているように感じたのは、私の都合のいい妄想か・・・・・?
「何故俺なのか、何故今なのか、何を知っているのか、どこまで知っているのか、聞きたいことは山ほどある。だけど今時間がないことは俺も理解している。そしておまえの気持に嘘偽りがないことも、俺の眼が節穴でない限り、本当なのだと思う。だから・・・・・」
「!!」
ルルーシュの答えを忠犬よろしくまっていたら、ふいに気づいた気配。
何か巨大な機械が動く・・・・おそらくはNMFだと判断したそれは、徐々にこちらへと近づいてくる。
そう判断した瞬間、私は跪いた状態から素早く立ち上がり目の前にいたルルーシュを腕に抱え、入口からは完全に死角になる位置へと跳躍。
腕の中のルルーシュにうっかり悶えそうになりながらもどうにか煩悩を抑え、彼に衝撃が行かないよう細心の注意をもって振動ゼロの着地。
「っなにをっ・・・・!」
「しっ、静かに」
突然のことに声をあげそうになったルルーシュの口を手で押さえ、意識を外へと向けた瞬間、
「!!」
轟音とともに現れたNMFに、腕の中のルルーシュの体が強張るのを感じた。
自由な不自由はつま先を二度とんとん、と地面に打ち付けないと発動しないので、最初の落下時重力操作はできないという裏話。